羽織は、洋服でいえばカーディガンです。そのため、カジュアルなシーンなどかなり活躍できますし、基本的には、年中いつでも着用可能です。
羽裏ありの羽織の着用時期は、10月から4月ですが、例えば、東京などで冷房が寒いときや、着物のちりよけの意味合いで、レースの羽織(図1)や薄羽織(図2)、単用の羽織などがあります。
1.羽織の歴史
細かい歴史は述べませんが、皆さんが、歴史上の古い羽織で最初に思いつくものといえば、戦国時代の陣羽織ではないでしょうか?陣羽織(図1,2)は合戦上で使用され、防寒の目的などがありました。
図1 織田信長が豊臣秀吉に送ったとされる陣羽織
図2 織田信長の陣羽織
(出典:『日本の色のルーツを探る』城一夫 発売元 バイインターナショナル)
衣服のランクとしては士族の中では裃より下、士族以外では番頭以上が着用していました。(参考Wikipedia)
その後、女性が羽織を着はじめたのは江戸時代の遊女になります。町方にもすぐに広まりましたが、風紀が乱れるということでしばらくすると禁制になりました。しかし、華美な羽織と対照的な黒一色の羽織を辰巳芸者が着て、羽織の格を上げたのです。
※辰巳芸者 江戸時代に深川で活躍した芸者。「芸」は売るが「色」は売らないという心意気を持った江戸時代の「粋」の象徴。
2.明治・大正・昭和時代の羽織
明治時代では、色無地、大正時代は、柄・色ともに派手になります。アールヌーヴォーやアールデコなどの西洋芸術様式の影響が見られたことや、化学染料の発達によりいろいろなバリエーションが生まれました。
その後茶羽織などがはやった時期もありましたが、昭和時代は入学式の母親の略礼装が黒の絵羽織でした。私の母も入学式の時は、黒絵羽を着た写真でしたね。
3.羽織を仕立てる時に必要なもの
(1)羽織に仕立てるとよい生地
無地にすると面白みに欠けるため、この季節を選ばない大きな雪輪柄は基調色が薄いベージュ(図3)なのでどんな着物にも合います。また、季節を感じさせないお花の柄(図4)も素敵ですね。右(図5)は季節を選びますが、この大胆で少し鮮やかな柄付けは大正ロマン風ですね。
図3 雪輪の大きな飛び柄
図4 大き目の花柄
図5 大正ロマン風
それでは、夏はどのような素材の生地になるのでしょうか? 紗(図6)や羅(図7)やなどの透け感があるものになります。羅は最近あまり作っていないようですが、古い感じが逆に新感覚で、若い人にも受け入れられるかもしれません。
図6 紗
図7 羅
(2)羽裏にするとよい生地
裏の生地はあまり重いものは適しません。裏側は目立つ柄(図8)にするのもよし、チェックのような現代柄風の遊び心(図9中央)やどんな着物にも合わせやすいぼかし(図9右)などで上品にするにも。
図8 浮世絵作家国芳の猫
図9 アラカルト
(3)羽織ひも
普通に結ぶもの(図10)、ワンタッチ(磁石など)(図11)のものなどがあります。また、羽織ひもは自作しても楽しいです。一番右は私がビーズ(図12)で自作したものです。
図10 長めの羽織紐
図11 マグネットタイプ
図12 自作の羽織紐
4.羽織に仕立てる時のポイント
(1)羽織の丈について 例えば洋服でもスカート丈が長めが流行の場合もあれば、短いときもあるように 羽織丈にも流行があります。最近では、ひざ下ぐらいが多いでしょうか?
(2)乳(ち)の位置
乳とは、羽織ひもを通す穴のことです。羽織ひもの結び目が、帯揚げと帯締めのちょうど中間にあるのが一番美しく見えるので、可能であればそれを意識しましょう。
(3)袖の形
振(ふり)が見えるように仕立てる場合や、着やすさと防寒対策としてのポンチョ風もかわいいですね。
ちなみに、このポンチョの柄は、見づらいかもしれませんが、北斎模様です。地模様が「菜籠麻の葉」。小さなポイント模様が「輪ちがい麻の葉」になっています。
6.まとめ
羽織はおしゃれのバリエーションが増えるだけではなく、着付けの七難隠すといわれています。着付けが上手なお友達と着付けに不安がある自分が待ち合わせをした際、帯が多少決まらなくても羽織をさっと羽織って出かけると、外からは見えないので、あとで着物上級者のお友達に直してもらいましょう。
☆プロフィール☆
AFT認定色彩講師 札幌市立大学 大学院 製品デザイン専攻 2019修了
修士 (デザイン学)
現在 北海道大学 文学院 博士課程 人間科学専攻 在学中
札幌芸術の森 ボランティア彫刻解説員
北海道薬科大学 元非常勤講師「医療色彩」北海道科学大学 元非常勤講師「歴史と文化」